日記 / 2025年12月14日

結婚式参加RTA

20年来の友人の結婚式に参加するため、仙台へRTA(リアルタイムアタック)状態で向かい、現地でスーツ一式を揃えた話。

6分 · 3979字日記結婚式

20年来の友人の結婚式に呼んでもらい仙台に帰っていた。 初めての結婚式の参加だった。

仕事終わりでそのまま新幹線に乗った。 仕事は私服だし、スーツも革靴も何ももっていないので、現地調達である。 翌日の15:30までに結婚式に参加できる状態でいなくてはならない。 いわゆる、RTA(リアルタイムアタック)である1。

註 1
RTA(Real Time Attack):ゲームのスタートからクリアまでの実時間を競う遊び方。本来は人生の大事なイベントでやるものではない。失敗すると「再走」はできない。

金曜日は母と、母の彼氏と3人で飲んだ。

母の彼氏はイロハ横丁2でバーをやっている。 彼氏のバーで飲んだ。 店のガラスにはチェ・ゲバラの写真が印刷された洋書が飾ってあり、店内にはアンディ・ウォーホルのマリリン・モンローのポスターがでかでかと貼られている。 革命と資本主義が、アルコールの中では仲良く同居している。

註 2
壱弐参(いろは)横丁:仙台にある昭和レトロな飲み屋街。戦後の闇市の名残とも言われ、狭い路地に小さな店がひしめき合っている。文化とカオスが煮詰まった場所。

帰宅し、犬と戯れて3時頃寝る。

10時に起床。 犬と戯れてから、シャワーを浴びて、12時頃家を出る。

この時点で、母が気を利かせてピン札を3枚用意してくれていた。 タイムロスの大きな原因となる「ピン札の両替」というイベントをスキップできたことになり、大幅な短縮に成功した。母、ナイスアシスト。

12時半ころ、スーツセレクトに到着する。 一目散に目が合った店員に事情を説明する。

「今日、友人の結婚式があり、何一つ準備していないので、全て揃えたいんです。予算が3~4万なので、それでどうにかしたい。最悪、革靴とかネクタイとかはドンキで買うので、ジャケットとパンツだけはここで買いたい」

そうまくしたてると、店員はすぐに「RTA走者」としての私を認識し、準備を始めてくれた。

早速目の前には2着のスーツ。 色が違うらしいが、誤差の範囲だ。黒にした。

ここまで5分くらい。 サイズだけ測りますね、と言われて試着して裾上げを頼んだ。

試着から着替えている間に、シャツとベストが用意されていた。 「ちょうどセールで1000円になっているのがあるので、これにしましょう」とのことでシャツも購入。

スーツが2万で、シャツが1000円。裾上げ代を含めても予算内に収まりそうだな、と安心していたら、店員がおもむろにベストを推してきた。

たしかに、なんの意味があるのかわからないベストだ。 防寒にもならなければ、防弾の機能もない。 だが、白のシャツに黒のジャケット、その間に一枚、灰色のベストがあるだけで、色のグラデーション的に「ちゃんとしている感」が出る気がした3。 思ってしまったのだ。

註 3
ベスト(ジレ):本来は正装の一部だが、現代のスーツ量販店においては「客単価を上げるための魔法の布」として機能する。ただ、着てみると確かに「主役感」が少しだけ出るので、抗えない魅力がある。

「これ、1万円です」

予算オーバー確実である。しかし、俺にはベストの有無で悩んでいる時間はなかった。 2~3分、脳内で葛藤した末、「可愛いならあったほうがいいよね」という雑な結論で購入。 しめて34,000円のお買い上げ。

「ドンキにいって、ベルトとネクタイと革靴揃えて戻ってくるので、最後ここで着替えさせてください」 と言って、店を出る。 この時点で13時過ぎ。割と順調である。

ドンキに行く。 革靴5000円、ベルト1500円。即決である。 ここには美学もへったくれもない。ただ足を守り、腰を締める機能があればいい。悩んでいる暇はない。

ここでネクタイも買えばよかったのだが、何が気に食わなかったのか、ドンキでは購入しなかった。 これで14時少し前。俺には移動時間込みで、あと1時間くらいしか残されていない。

ドンキの革靴。2万円の黒のスーツ。1万円の灰色のベスト、1000円のシャツ。 残すところはネクタイなのだが、あまりにも味気ない格好の自分が見えてきてしまった。 「どうせならネクタイで遊んでみるか」 そんな余計な自我が芽生えてしまった。

ビームスへ行く。 先程同様に店員に事情を説明する。 「とはいえ、なにか物足りなさもあって、ビームスへ来てしまいました……」と付け加える。 ドンキで済ませられなかった自意識を、店員に告解する。

20分くらいあぁでもないこうでもない、グダグダ悩んだ末、 14,000円のニットのネクタイを購入した。ニットで可愛いのである。

色が派手ではないものの、素材のテクスチャーで遊ぶという、賢しらな機転を利かせた4。

註 4
ニットタイ:編み地素材のネクタイ。フォーマルすぎず、カジュアルすぎず、「あえて外してますよ」という記号として機能する。14,000円は高いが、ドンキの革靴を履いている自分への免罪符としては安いのかもしれない。

些か満足げでありながら、予算は確実にオーバーしているので「ネクタイさえ妥協しておけば」という後悔も抱えつつ、スーツセレクトに戻る。 一仕事を終えたつもりで、「ここで全部着させてください」と店員に伝え、試着室に入る。 ネクタイまで締めてもらう。 「うん、バッチリですね」と言われながら店を出る。 装備は整った。

ようやく落ち着けると思い、仙台駅の喫煙所で一服する。 なんなら荷物を駅のロッカーに預けようかなぁ、などと余裕をかましていた矢先である。

完全にご祝儀袋の存在を忘れていた。

そそくさと文房具屋さんへ向かう。 何でもいいやと思い手に取った。 ご祝儀袋の会計時、念のため店員に「これって……何か書かなきゃいけないんでしたっけ……」と恐る恐る聞いてみる。 なんだか一筆したためなきゃいけないらしい、ということで、筆ペンもセットで購入5。

註 5
筆ペン:ご祝儀袋の内袋には金額や住所を書く必要がある。本来は毛筆がマナーだが、現代人は筆ペンで許されている。吉野家のテーブルで書くことが許されているかどうかは、マナー講師に聞いてみないとわからない。

とはいえ時間もないのである。 なんならお腹も空いてきた。 結婚式の最も厳かでみんなが静まり返っているタイミングで、お腹が鳴ったら恥ずかしい事は容易に想像がついた。

吉野家に入った。 カウンターで牛丼を食べながら、ご祝儀袋を書くことにした。

吉野家の牛丼とご祝儀袋
俗なるエネルギー補給。

牛丼の湯気と、紅生姜の赤と、ご祝儀袋の水引の赤。

これでなんとかなり、なんとかなったのである。 大体3時間。ネクタイさえ妥協しておけばもう少し早く進んだはずだ。

そして、結婚式の控え室で友達と合流する。

小学校中学校の友達なのだが、中学校卒業以来だ。 20年近い時間が空いている。 ほとんど成人式で1回会った程度なので、まぁ微妙な距離感があるだろうなぁ。嫌だなぁ。 内向的な性格特有の、「起きてもいない気まずさ」を勝手に想像して、胃が痛くなる。

控え室の円卓を囲む形で、既に座っていた友達が数人いた。 そのうちの1人が、久しぶりに会う俺の顔を見るなり言った。

「ミッキー、気まずそうな顔してんじゃねーよ(笑)」

久しぶりの友人たち
気まずさを埋めるのは、こういうバカな一瞬だけでいい。

Cosmic Dance / 2025年12月14日
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