日記 / 2026年3月9日
三千円のランチと午前三時のPunpee
土曜出勤、麻布台ヒルズの水餃子、マッチングアプリの残像、元カノと元々カノ、そして午前三時にタイムマシーンになった店。
土曜日は出勤した。
風邪を引いたり、飲み会に出たり、ライブに行ったり——要するに業務時間に業務を終わらせられない週が続き、タスクがぼやぼやと残っていた。見兼ねた上司が「どうせ俺も仕事するから俺もオフィス行くわ〜」と言うので、二人で休日のオフィスに向かった。
ありがたいことに奢りグセのある上司で、今回もお昼をご馳走してくれるという。神谷町はオフィス街だから、普段のランチ屋は土日にことごとく閉まる。休日はランチ難民の街だ。「せっかく土曜に来たし、麻布台ヒルズでも行こうぜ」。
暖かい日だった。道中、桜が咲いていた。
三千円の水餃子
ランチ時の麻布台ヒルズは思いのほか混んでいた。エントランス近くの丸テーブルには、ベビーカーを脇に留めた知らないパパが、二千円はしそうな弁当をすごい猫背で食べている。すぐ隣のハイエンドなインターナショナルスクールでは何かの催しが行われていて、上品な家族連れが出入りしている。「もし子供ができて頑張って幼稚舎とかに入れたら、パパ友すごいことになりそうですね」などと柄にもないことを喋りながら、比較的空いていた中華屋に入った。
二千五百円の麻婆豆腐定食と、二人で半分こした水餃子。
水餃子は、これでもかというほどもちもちの皮に、一センチ角に切られた肉の繊維がゴロゴロと詰まっていて、ありえないくらい美味かった。タレはココナッツとラー油が混ざった甘辛い味がする。土鍋でグツグツと出てきた麻婆豆腐は、思ったより辛くなく、山椒も控えめだったが、淵のあたりがわずかにグラタンのように焦げ付いていて、豆豉のこくと旨みがじんわり広がった。
合わせて三千円くらいのランチを奢ってもらった。久しぶりに高くて美味しいものを食べた僕は、満腹感とは別の、うまい飯を食べた後にしかない豊かさに浸っていた。夜のマッチングアプリのデートに、少し心が弾んでいた。
写真の三割引き
夜、ハチ公前で待ち合わせをして、渋谷ののんべえ横丁でマグロを食べた。
女性は写真の三割引きくらいの可愛さだった。
マッチングアプリあるあるの、あの謎のガッカリ感。会自体がどうこうというより、変に期待して鼻息を荒くしていた自分への虚しさ。久しぶりにそれを感じた。こんなことをするくらいなら三千円のランチを食べた方が、人はもっと豊かだ、と思った。
元カノと元々カノ
学芸大学に着き、いつもの飲み屋で飲んでいたら、元カノから「近くにいるから飲まないか」と連絡が来た。飲んでる場所を伝えると、来る、と言う。
問題があった。
その元カノの後に付き合って、その後別れた女性——ここでは元々カノと呼ぶ——が、まさにその飲み屋にいたのだ。つまり、元々カノが来る前に、元カノにこの店から出てもらわなければならない。
そんなことできるのかと思いながら、結果的に諸々成功する。とはいえ元々カノが先に着いていたらしく、店の近くで数分待たせてしまった。彼女もだいぶ酔っていたようで、なぜか待たされたことにブチ切れながら入店。元カノがいる店に元々カノを呼んだ僕のやばさに、店全体が少し引いていた気がする。適当に全体の機嫌をなんとか取りながら、良い具合に酔っ払い、やがて店には僕と元カノだけになった。
午前三時のタイムマシーン
午前三時。店では田島貴男が流れていた。
田島貴男の話から、元々カノが好きだという田島貴男とPSGの曲が流れてきた。とても良い曲でびっくりした。
二〇一七年。当時、受験勉強のために毎朝三時に起きてコーヒーを淹れていた高校生の僕は、Spotifyで新譜をチェックするのが日課だった。Punpeeの『Modern Times』をリリース当日に聴いた。午前三時、十七歳。日本語ラップのヘッズでもなんでもなかったが、初めて日本語ラップを聴いて涙した。
あれからもう十年が経とうとしている。午前三時の店がタイムマシーンになった。
僕にとってタイムマシーンになったこの店で、PSGからPunpeeへ、流れは自然と繋がっていく。「P.U.N.P」があまりにもいい曲で、二人しかいない店は急にクラブの様相を呈した。
気がついたら立ち上がって、ダッキングにノリノリになりながら「あー!」とか「良すぎる……」とか言いながら踊り狂っていた。
みんなの今日